会長挨拶

Connections

 

2025年度春学期のある日、楽真館地下での「外国語教育論1」の授業が終わった頃(火曜日の5講時、16:45-18:15まで)、ひとりの清楚な出で立ちの女子学生が教卓のところにやって来て、「信原修って知っていますか」と私に尋ねました。「もちろんです。言語学の大家、大教授ですよ」と答えると、「実は私の祖父なんです」と微笑みながら先生との家族写真を見せてくれました。そこには懐かしい信原先生とご家族の和やかなご様子がありました。と同時に、私が同志社女子大学に赴任した当時(1994年で、すでに30年以上前になります)の先生との思い出が鮮やかに蘇ってきました。

 

英語英文学科は当時、京田辺キャンパスにありましたが、何かの会議で今出川キャンパスへ移動する必要があったのでしょう。「若本君、車で送ってあげよう」と、あの穏やかな笑顔でお声がけいただきました。道中、「君の分野でRegister(レジスター)はどのように解釈されているのかね」と運転をされながら尋ねられました。Registerとは英語コミュニケーション能力の重要な要素の一つであり、社会言語的能力における「言語使用域」を指す専門用語です。例えば、教室で英語を話す場合と、教室外のインフォーマルな場、例えばパーティーで英語を用いる場合とでは、言葉遣いの丁寧さに差異が生じます。現在であれば、このように説明することもできますが、当時の私はまだ浅学であったことに加え、大先生と二人きりで車中にあることへの緊張もあり、適切にお答えすることができませんでした。人は成功の記憶よりも失敗の記憶の方を鮮明に留めるものですね。信原先生のお写真を拝見しながら、この懐かしい記憶とともに、その後10年以上にわたり同僚としてご一緒させていただいた日々が走馬灯のように思い出されました。同時に、そのお孫さんを教えさせていただいていることに、不思議なご縁と温かい気持ちを覚えました。

 

竹村憲一先生にも、赴任当時に頂戴したお言葉とその場面が、今なお鮮明に記憶に残っております。当時、竹村先生は国際交流センター長の要職にあられましたが、「大学では若本君の好きなようにやればよい」と温かく励ましてくださいました。本稿をお読みの方の中には「余計なことを。。。」と思われる方も多いかもしれませんが、私はそこに、「自由・自立・自治」を重んじる同志社精神を強く感じ、改めて心を動かされました。また、当時はインターネットの黎明期であり、接続にはモデム(電話回線)を介する必要がありましたが、接続がうまくいかず、先生のご自宅に伺ったこともありました。iPhoneなどが登場するはるか以前のことであり、当時Macintosh(通称Mac)を使用していたのは、竹村先生とReis先生ほどであったように記憶しております。私が比較的Macに通じていたことからお声がけいただいたものと思いますが、先生のご自宅のPerformaの設定を変更し、モデム特有の接続音が無事に聞こえた際の安堵感は、今でも印象深く残っております。

 

お二人が昨年から今年にかけて相次いでご逝去されたことは誠に残念でなりませんが、同時に、このような温かな思い出が私のみならず、卒業生の皆様にもきっとおありになるものと思います。それは単なる思い出にとどまらず、いわば家族にも似た深い記憶ではないでしょうか。「一般的な」大学において、このような関係性が築かれることは、決して多くはないように思われます。これは、同志社女子大学がキリスト教主義に基づき、学生と教員が一つの大きな家族のような関係を築くことができる高等教育機関であること、さらに京都という歴史と伝統ある地に位置していることに由来する、稀有な特徴であると感じております。

 

先日(3月18日)の卒業式に際し、私は卒業を迎えるゼミメンバーに対し「つながりを大切にすること」の重要性を強調しました。友情には始まりがあっても終わりはない、しかしながら、意識して関わり続けなければ、そのつながりは徐々に希薄になってしまいます。本稿をお読みの卒業生の皆様にも当てはまることではないでしょうか。すでに恩師の中には鬼籍に入られた方もおられるかもしれません。しかし、先生や友人との思い出は、同志社女子大学英語英文学科という場を通して、今なお呼び起こされるものと感じています。その根底には、「個人と個人」「個人と学問」「個人とゼミ」という多様なつながりが存在しています。その意味において、標題に掲げたConnectionsは、私たちの人生を豊かにし、折に触れて心を温めてくれる、かけがえのない存在であると言えるでしょう。そして、そのConnectionsを媒介(Catalyze)する役割を担っているのが、本英語英文学会であります。卒業生約3万人を擁する本学会は、2027年に60周年という節目を迎えます。

 

この60周年を見据え、学会費納入システムにも新たな取り組みを導入いたしました。従来の郵便振替に加え、電子決済(PayPay等)が利用可能となっております。2月末より運用を開始し、すでに2025年度年会費についても60名以上の会員の皆様にご利用いただいております。その際、「年会費の件、ペイペイで決済できると聞いて今やってみたら名前や住所入力も含めて2分くらいでできてびっくり!」「私Amazon Payでやってみたんだけど、住所も自動で入力された」「遅くなり申し訳ございません、年会費入金させていただきました。PayPay払い可能となっており、大変助かりました!」「先ほどお支払いを完了いたしましたので、ご確認お願い致します。英語英文学会の益々のご発展をお祈り申し上げます。」「今まで払わずにすみません、早速!」など若手(?)の会員の皆さんからのコメントを頂き、大変うれしく思っております。このような取り組みを通じて、会費納入の促進とともに、卒業後においても学会を媒介とした英語英文学科および卒業生相互の交流が一層深まることを願っております。

 

英語英文学科では、Saki先生がカナダThe University of British Columbia(UBC)での在外研究からご帰任され、新たに今井先生がボストンでの在外研究に出発されました。世界情勢は、何が正義であるのかを見極めることが困難な混沌とした状況にありますが、私は、アンパンマンの作者であるやなせたかしさんが大切にされていた「逆転しない正義」を追い求め、まずは半径50cmを幸せにする、小さな試みから始めてみることが大切だと思います。英語英文学会でもご講演いただいた平野啓一郎氏は、『文学は何の役に立つのか?』(岩波書店、2025年)の中で、「正気を保つため」と述べておられます。私たちが学問研究をするのも、ある意味「正気を保ち」、同時に「人類の進歩と幸せに貢献するため」であると思います。

 

困難な状況にあってもあきらめることなく、できることからひとつひとつ、若者のような輝く目とわくわくするこころを大切にしながら、日々、それぞれの場で奮闘してゆきたいものですね。

 

同志社女子大学はみなさんの母港、英語英文学科はみなさんの青春の地、そして英語英文学会はみなさんの交流の場であります。どうぞいつでも戻ってきてください。

 

Never miss an opportunity to be fabulous!

 

2026年4月

 

英語英文学会第23代会長

若本 夏美